看護師の転職で退職を引き止められたときは、まず「退職する意思が固まっているか」を決め、退職日を変えられるかのような曖昧な返事をしないことが大切です。退職の意思が固まっているなら、理由を詳しく説明し続けるのではなく、退職日と引き継ぎ方法を伝えて手続きを進めます。
一方、給与アップや勤務条件の改善を提案された場合は、転職先の条件と書面で比較しましょう。人手不足への申し訳なさだけで残ると、転職を考えた原因が解決されないままになることがあります。
まず決めるのは「残るか、退職するか」
引き止められたときは、上司の熱意や職場への罪悪感ではなく、転職を考えた理由が解決するかで判断します。退職の意思が変わらないなら、交渉を続ける必要はありません。
次のように、退職の意思を3段階で整理すると判断しやすくなります。
| 自分の状態 | 対応 |
|---|---|
| 退職する意思が固まっている | 退職日と引き継ぎを伝え、条件交渉を長引かせない |
| 条件が変われば残る可能性がある | 給与、夜勤回数、休日、配属などを具体的に確認する |
| 転職先を含めて迷っている | 転職先の雇用条件と現在の職場の改善案を比較する |
「もう少し考えます」とだけ答えると、職場からは退職を撤回する可能性があると受け取られることがあります。退職すると決めている場合は、丁寧でもよいので結論をはっきり伝えましょう。
退職の意思が変わらない場合の伝え方
退職理由を細かく説明するよりも、決定事項として簡潔に伝える方が、説得や反論を受けにくくなります。
たとえば、次のように伝えます。
「これまでお世話になったことには感謝しています。ただ、転職する意思は変わりません。退職日は○月○日を希望しています。業務に支障が出ないよう、引き継ぎを進めます」
「人間関係が嫌だから」「給料が低いから」など、具体的な不満をすべて話す必要はありません。詳しく話すほど、上司から「そこは改善する」「その人を異動させる」と個別の解決策を提示され、話し合いが終わらなくなることがあります。
理由を聞かれた場合は、「今後の働き方を考えた結果、転職すると決めました」「一度決めた進路を変える予定はありません」といった表現でも対応できます。
「条件を改善する」と言われたときの確認項目
残る選択肢を検討するなら、口頭の約束だけで判断せず、変更内容と実施時期を確認します。特に看護師の場合は、給与だけでなく夜勤や勤務体制が働き続けやすさに直結します。
- 基本給、手当、賞与、昇給の変更内容
- 夜勤の回数、夜勤手当、オンコールの有無
- 希望休、年間休日、有給休暇の取りやすさ
- 配属先や異動の可能性
- 残業時間や勤務シフト
- 人間関係や指導体制への具体的な改善策
- 変更が始まる時期と、誰が責任を持つのか
「給料を上げる」「夜勤を減らす」と言われても、金額や回数、開始時期が決まっていなければ、転職先との比較はできません。変更後の労働条件が書面で示されない場合は、確定した条件として扱わない方が安全です。
また、退職を申し出た後に急に提示された条件が、今後も継続するとは限りません。転職を考えた原因が、給与ではなく過重労働、教育体制、休みの取りにくさなどにあるなら、一時的な条件改善だけで解決するかを考えます。
退職日と退職手続きを確認する
退職を進めるときは、退職日、退職の意思を伝えた日、引き継ぎ内容を記録に残します。口頭だけで終わらせず、退職届の提出方法や必要書類も確認しましょう。
期間の定めがない雇用契約では、法律上、退職の申し出から一定期間が経過すると退職できるとされます。ただし、就業規則に申し出の時期が定められている場合や、シフト・引き継ぎの調整が必要な場合があるため、可能であれば就業規則を確認し、余裕を持って申し出ます。
一方、契約社員など期間の定めがある雇用契約では、契約期間の途中で辞められるかの扱いが異なります。契約期間、更新の有無、退職に関する規定を確認し、判断が難しい場合は労働相談窓口などに相談してください。
退職日について合意できない場合でも、会社が引き止めていることだけを理由に、退職日を無期限に延ばす必要があるとは限りません。ただし、雇用契約の種類や状況によって扱いが変わるため、強い対立になる場合は個別の確認が必要です。
退職届と退職願の違い
一般に、「退職願」は退職を願い出る書類、「退職届」は退職を届け出る書類として扱われます。職場の指定様式や提出先がある場合は、それに従います。
退職届を提出する前に、就業規則や人事担当者への提出方法を確認しておくと、書類の不備や受け取り拒否をめぐるトラブルを減らせます。提出日や内容を自分でも保管し、メールなど記録が残る方法で提出方法を確認するのも一つの方法です。
よくある引き止めへの返答例
「人手不足だから、もう少し残ってほしい」と言われた場合
人手不足は職場側の運営上の問題であり、退職者一人が無期限に背負うものではありません。必要な引き継ぎには協力しつつ、退職日を延ばすかどうかは別に考えます。
「人員が不足していることは理解しています。できる範囲で引き継ぎは行いますが、退職日は○月○日から変更しません」
「今辞めると患者さんに迷惑がかかる」と言われた場合
患者さんへの責任を感じることは自然ですが、退職を理由に必要な人員配置や引き継ぎを個人だけで解決する必要はありません。担当業務、申し送り、記録の場所などを整理し、決めた退職日までに引き継ぎを行います。
「患者さんへの影響が出ないよう、担当業務と申し送りを整理します。ただし、退職の決定は変わりません」
「転職先より良い条件にする」と言われた場合
転職先を断る前に、現在の職場が提示する条件を、給与だけでなく勤務時間や休日も含めて書面で比較します。転職先への入職を辞退すると、再び同じ条件で入職できるとは限りません。
残る場合は、少なくとも次の点を確認します。
- 変更後の給与や手当の金額
- 夜勤や休日など勤務条件
- 条件が適用される開始日
- 書面での提示があるか
- 転職を考えた原因が解決するか
「退職届は受け取らない」と言われた場合
退職届の受け取りを拒否された場合は、提出方法や提出先を記録に残してください。人事部門や上位の管理者に提出する方法が定められていないか、就業規則も確認します。
それでも手続きが進まない、退職を理由に嫌がらせを受ける、給与や有給休暇をめぐる問題があるといった場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーなど、公的な労働相談窓口への相談を検討できます。
引き止めが強いときに避けたい対応
次のような対応は、退職の意思が曖昧だと受け取られたり、後で言った言わないの問題になったりしやすいため注意が必要です。
- 退職するつもりなのに「条件次第では残る」と繰り返す
- 退職日を決めずに、転職先の入職日だけを優先する
- 上司との口頭の約束だけで転職先への辞退を決める
- 感情的になり、同僚や患者さんに一方的な不満を広める
- 引き継ぎを放棄して突然出勤しなくなる
退職の意思を伝えた後も、決められた勤務を行い、必要な引き継ぎを進めることは大切です。ただし、違法な長時間労働や安全上の問題、心身の不調がある場合は、無理に抱え込まず、勤務先の相談窓口や医療機関、労働相談窓口に相談してください。
転職先が決まっている看護師が確認すること
転職先の入職日が決まっている場合は、現在の職場の退職日と重ならないように調整します。退職交渉が長引く可能性を考え、転職先には入職日を変更できるか、変更期限がいつかを確認しておくと安心です。
現在の職場に残ることを決めた場合は、転職先への辞退連絡も早めに行います。反対に、現在の職場の引き止めを断る場合は、退職日を明記し、転職先の雇用条件通知書などと照らし合わせて手続きを進めます。
特に、夜勤の開始時期、試用期間、給与、休日、配属先は、面接時の説明と書面の条件が一致しているか確認してください。
引き止めを断るときの判断基準
退職するか残るか迷ったら、「その条件が退職を考える前から提示されていたとしても、今の職場を選んでいたか」を考えると判断しやすくなります。
残る選択が向いているのは、改善内容が具体的で、実施時期と条件が書面で確認でき、転職を考えた理由も解決できる場合です。反対に、約束が口頭だけ、改善時期が不明、退職を申し出たことへの不満や圧力だけが強い場合は、残る根拠が十分か慎重に考えます。
引き止めを断ることは、現在の職場や患者さんを大切に思っていないという意味ではありません。退職日までの業務を整理して誠実に引き継ぎつつ、自分の今後の働き方に必要な決断をしてよいのです。
退職の意思が固まっているなら、退職日を明確に伝え、引き継ぎを進めましょう。残る可能性があるなら、提示された条件を必ず書面で確認し、転職を考えた原因が本当に解決するかを基準に判断してください。







